「ヴァンデ・グローブ Vendée Globe」は、1989年にフィリップ・ジャントにより創設された、単独無寄港無補給世界一周ヨットレースです。
世界で最も過酷な”海のエベレスト”と呼ばれるヨットレースなのです !
4年ごとに開催されるヨットのオリンピックは、約30艇がフランスのヴァンデ県を出港し、マストで受ける風だけを動力にして何処にも上陸せずに45,000Kmを、たった1人で世界一周するというレースです。
この世界一過酷なヨットレースに日本人の海洋冒険家「白石康次郎」さん53歳が、2021年2月11日、16位(33艇中)で完走しました。
記録は94日21時間32分56秒で、これにより、アジア人として初のヴァンデ・グローブ完走を果たしたのです。
日本人の海洋冒険家「白石康次郎」さん
すでに、世界をヨットで3周した事のある、日本人の海洋冒険家「白石康次郎」さんの「ヴァンデ・グローブ Vendée Globe」完走までの道のりをまとめました。
2016年11月6日<第8回> フランスからスタートする世界一過酷なヨットレースとされるヴァンデ・グローブへ、アジアから初出場。レーススタートから約1か月後の南アフリカ沖でディスマスト(マストの折損) 、レース続行が不可能な状態になり、南アフリカへと寄港しリタイヤ。
それから4年後…。
2020年11月の「ヴァンデ・グローブ」出場権を獲得するためには、予選レースとなる二つの大西洋横断ヨットレース「The Transat CIC」、「Transat NY-Vendee」に出場しなければならなかったが、世界的なCOVID-19の流行により、いずれのレースも中止となる。
2020年7月に、既に行われていた「ヴァンデ・グローブ」の予選「ヴァンデ・アークテック・レ・サーブル・ドロンヌ」(約5900km)で、20艇中10位の成績で完走。このレースに完走したことで「ヴァンデ・グローブ」出場権を獲得。
2020年11月8日<第9回> 2度目の挑戦となるヴァンデ・グローブへ出場。レース7日目に大西洋アゾレス諸島沖でメインセールを破損。海上で1週間の修理をし、そのままレースを続行。2021年2月11日、94日21時間32分56秒で完走。33艇中16位。アジア人として初のヴァンデ・グローブ完走を果たす。
出典 : wikipedia
世界で最も過酷なヨットレース言われる理由
世界一周するには、様々な難所の数々を通過しなければなりません。
特に事故が多いのは、南極の周りだと言います。10メートルを超える波があり、クジラに激突されたり、氷山が波に隠れて見えなかったりする危険が多い場所とのこと。
ホーン岬は『船乗りの墓場』と呼ばれており、高さ20mの波も珍しくないそうです。
マストで受ける風だけを動力にレースが行われるので、風は最も重要で、最も厄介と言うのです。
強過ぎても駄目… 風速20メートル以上の台風に匹敵する風を受ける時もあります。
弱すぎても駄目…『赤道無風地帯ドルドラム』は、風がないので進まず、お手上げになるそうです。
大西洋は船が多く、タンカーが落としたコンテナに衝突して事故につながることがあり、海賊も出没するんだそうです !
白石さんも西アフリカの沖で海賊に襲われた経験があるそうです。
2人の黒人がヨットに乗り込んで来て、「金と食料を出せ !」と脅された経験を語られています。
ヨットに積んでいた木刀を振り回して海賊に立ち向かったら、海に飛び込んで逃げて行ったそうです。
このように、航行中は常に死と隣り合わせなのです。
過去には行方不明者が出たこともあり、このレースは“完走率50%”とも言われています。ちなみに、過去8大会で計88人しか完走していません。
肉体的にも精神的にも究極なヨットレース
ヨットレースには、チームで行われるレースもあります。
しかし、「ヴァンデ・グローブ」は1人で全て行わなければならないのです。
3が月の間、1時間以上眠れないし、慣れるまで船酔いもする。人によっては、ほぼ24時間酔っている状態と言います。
また、約4000カロリーの食料+80日分の水を積んでレースをするのですが、足りなくなったからと言って、誰も食料や水など持ってきてくれません…。
食料を多く積むくらいなら、積まずに船を軽くして、速く走りたい。と言う参加者がほとんどで、1回のレースで7~8キロは痩せるそうです。
船が壊れたら、自力で直さないといけないし…、ちなみに、重要なマストの高さは約29メートルで、ビルの9階位の高さがあります。
トイレは、バケツで、海水で溶ける特殊なビニール袋を使用して、使用後は海に投げ捨てます。
寝ている時も、トイレにいる時も、ノンストップでレースを続けなければならないのです。
一度スタートしたら、どんなトラブルが起きようが時計はもう止まってくれないのです !
出典 : number.bunshun.jp
「ヴァンデ・グローブ」コースの説明
風だけを原動力に80日~120日もの長い間一度も寄港せずに南半球を一周するというレースで、競技時間は約2,000時間と言われています。
睡眠時間も1時間~2時間の仮眠程度で、一度も船を止めることなくゴールを目指して走り続けます。
大会で使用するヨットは全長約18mでマストの高さは約30mの大きなヨットで通常は10人ほどで操船しますが、全てを一人で行います。
歴代優勝者は全てフランス人で、圧倒的な強さを誇っています。
第1回大会の優勝者の記録タイムは109日8時間47分55秒、第8回大会は74日3時間35分46秒 (大会記録)と年を重ねるごとにタイムが縮んでいます。
それでも74日、約2か月半ほどレースに参加するわけですから過酷であることに変わりはありません。
「ヴァンデ・グローブ」では以下のチェックポイントを通って世界一周を目指します。
- 南アフリカ共和国西ケープ州ケープタウン : 喜望峰
- インド洋に浮かぶ無人島 : ハード島
- オーストラリア西南 : ルーイン岬
- 南アメリカ最南端 : ホーン岬
各チェックポイントに寄港するという意味ではなく、このチェックポイントの近くを通ればOKです。
スタートとゴールは一緒で、フランスのヴァンデ県の「レ・サーブルドロンヌ」という場所です。
ちなみに、優勝賞金は20万ユーロ !(約2,500万円)ですが、ヨットレースに掛かる金額はそれ以上なんですよ。
スポンサーとのチームワークが大事
フランスで行われた白石さんの会見では、「DMG MORI Global One」のチーム(メインスポンサー工作機械大手「DMG森精機」の森雅彦会長)と、ビロウ監督に感謝の意を表しました。
やはり、スポンサーと共同でするレースである事を忘れてはいけません。
また、このレースのために、約20億円集めて挑んでいます。
そして、フランス語も英語も話せない白石さんを受け入れてくれたジャック(Caraës)に感謝し、「ヴァンデ・グローブ」に”ありがとう”の言葉を残しました。
白石さん曰く、
心を温め、ほぐし、素直な声に耳を澄ませば、人生の“航路”は自然と見えてくる。それを実践し、伝える。自身の53年生きた足跡で証明してきた。誰もやっていないことは、誰もできないことじゃない。人生は冒険…。