皆さんは、2歳以前のことを覚えていますか?
一般に、2歳から6歳までの間に起こったこともほとんど覚えていないと言う人が多くいます。
私も、その一人です。
2歳以前の出来事を覚えているという人もいるかもしれません。
しかし、それは実際に自身が記憶した人生のエピソードではなく、
両親の話や写真から再構成された記憶である可能性が高く、
実際には人生の最初の2年間に関する記憶は存在しないと言われています。
幼少期の記憶
近年の研究で、大人は2歳以前に経験したことの記憶がないだけでなく、
2歳から6歳までの間に経験したことの記憶もほとんどないことが明らかになったのです。
しかし、幼少期に起きた出来事、特にトラウマ的な出来事は、
感情や認知の発達にかなりの影響を及ぼし、
その後の行動に影響を与えることがわかっています。
エピソード記憶
私たちは、2歳以前の記憶を持ちませんが、
成長する過程で、名前、顔、多くの言葉の意味を次第に記憶していきます。
これは「意味記憶」といい、事実や概念の記憶です。
2歳以前の記憶がない理由は、「エピソード記憶」という別の記憶にあります。
つまり、クリスマスや誕生日など、
ある特定の状況、場所、時間にイベントへ参加したなどの記憶のことです。
このようなイベントに参加した事を忘れてしまうのです。
エピソード記憶は、側頭葉の内側にある海馬と呼ばれる脳の部位に特に依存しています。
実は、アルツハイマー病の神経細胞の変性はここから始まります。
海馬は、健忘性脳卒中、健忘性てんかん、健忘性イクタス(一時的に新しい記憶を形成できなくなる、壮大だが幸いにも可逆的な障害)にも関与しています。
ゆっくりと成熟する海馬
人間の脳の発達は妊娠3週目から始まり、25歳頃まで何年にもわたることがわかっています。
しかし、すべての脳部位が同じ時期に同じ速度で発達するわけではないのです。
2歳まで海馬の体積は劇的に増加し、その後、海馬の体積はほとんど変化しません。
一方、海馬の内部では、記憶の作成と検索に使われる回路に従って組織化されており、
最も複雑な回路が完成するのは6歳頃です。
このように、海馬の成熟とエピソード記憶の発達には直接的な関係があるのです。
2歳以前のエピソード記憶がないのは、
”海馬の未熟さが原因で記憶が作られない”と言うことになります。
他にも説があり、成長段階で、既存のニューロンが新しいニューロンに置き換わると、
以前のニューロンによって保存されていた記憶へのアクセスが失われている可能性がある
と言うものです。
コンピューターシステムが更新されると、古いソフトウェアを開くことができなくなるのと同じ現象です。
このように、記憶力というのは、いきなり身に付く力ではないのです。