フランスでは、定年退職の日を楽しみに、指折り数えて働いている人が多くいます。
また、同僚も私に、「あと何年で定年退職できるの?」と聞いてきます。
個人的に、このような質問は私は嫌いですが、フランスでは、よくある会話の一つです。
私の答えは、「私がいつも元気なのは、働いているから。定年退職は考えていないし、
私はこの仕事が好きなので、できるだけ長く働き続けたいと思っている。」と、
答えています。
私の周りから学んだことで、定年を気にせずに働き続けている人々は、みんな生き生きしていて、
心身ともに健康だからです。
しかし、好きな仕事ではなく、自分に合っていない仕事を生活のために続けている人たち、
または、生活環境などの要因もあり、定年退職する日が待ち遠しい人たちが多いのが現実です。
フランスでは、今まで語られてこなかった、
多くの人たちに訪れる定年退職後の「うつ病」が問題視されています。
フランスの定年退職後の「虚無感」問題
身近で起こった話では、私の同僚のお父さんは、退職した次の日、
心筋梗塞を起こし、病院へ入院したのです。
よくある話だそうで、
「長年勤めた会社を退職した翌日、急に襲ってきた重苦しい静寂と猛烈な虚無感」
長年、仕事を中心に走り続けてきた人たちにとって、定年退職は大きな節目です。
しかし、解放感や達成感を味わうのも束の間、
突然「自分が社会から孤立してしまったような感覚」や
「何をすればいいかわからない戸惑い」に襲われるケースが少なくないとのこと。
実は、このような「定年後うつ」や退職後の孤独感に悩む人は非常に多く、
近年フランスでは、「人生のサードハーフ(第3の人生)」を前向きに生き抜くための
新しい研修や取り組みが注目を集めています。
なぜ定年後に「強烈な空虚感」が襲ってくるのか?
退職直後に感じる孤独や落ち込みは、決してあなた個人の弱さではありません。
人生の大きな転換期(トランジション)において、
多くの人が経験する自然な心理的反応です。
主な原因には、以下のような点が挙げられます。
- 「肩書」と「役割」の喪失:何十年も「会社での役職」や「組織の一員」として生き、それを自分のアイデンティティにしてきた人ほど、退職した瞬間に「何者でもなくなってしまった」という強い焦燥感を抱きやすくなります。
- 自動的に用意されていた「日常の枠組み」の消滅:毎朝同じ時間に起き、同僚と会話をし、スケジュールに沿って作業を進める。これまで当たり前だった生活リズムが一夜にして消え去ります。自由すぎる時間が、かえって「重荷」に感じられてしまうのです。
- 人間関係の断絶による孤立:人間関係の大部分が職場にあった場合、退職によって人との関わりが激減します。「誰とも話さない一日」が続くことで、社会から取り残された感覚が強まります。
今回は、定年退職後に訪れる「心の問題」とその背景、そしてそこから立ち直り、
新たな生きがいを見つけるためのフランスで行われている取り組みをご紹介します。
定年後の生きがいと新しい道を見つける4つのステップ
定年退職は、これまでの職業的なアイデンティティから一度離れ、
「自分自身のための新しい人生」をゼロからデザインできる絶好の機会でもあります。
新しいステップを踏み出すための代表的なアプローチをご紹介します。
自己分析と内省(じっくり自分と向き合う)
まずは無理に何かを始めようとせず、これまでのキャリアや人生を振り返ってみましょう。
- 自分が本当に情熱を傾けられることは何か?
- 昔好きだったこと、時間があればやりたかったことは何か?
- これまでに培ってきた経験や強みは何か?
「何をしたいか」を整理することで、理想的な生活リズムのベースを作ることができます。
退職準備・ライフプラン作成ワークショップに参加する
近年では、退職前後のシニアを対象とした1〜2日間の短期講座やワークショップが増加しています。
同じような境遇や悩みを持つ同世代の人々と語り合うことで、
「悩んでいるのは自分だけではない」と心が軽くなると同時に、
今後の具体的な「ライフプラン」を描くきっかけが得られます。
学び直し(リスキリング)や専門スキルの習得
オンライン講座や、シニア向けに広く門戸を開いている大学などを活用して、新しい学びをスタートさせるのもおすすめです。
- 語学学習やPCスキルのアップデート
- 趣味を深めるための専門知識
- 地域貢献やボランティア活動に役立つ資格の取得
「学ぶこと」自体が日々のハリとなり、新たなコミュニティとの接点にもなります。
地域ボランティア・働きながら受給(在職老齢年金)の検討
完全に社会から退くのではなく、「ゆるやかなつながり」を持ち続ける方法もあります。
- 地域の非営利団体(NPO)でのボランティア活動
- これまでのスキルを活かしたアドバイザーやコンサルティング業務
- 短時間勤務やパートタイムでの再就職
社会や誰かの役に立っているという実感が、大きな生きがいにつながります。
定年退職はひとつの終わりのように聞こえますが、
「自分が主役の新しい物語」が始まるスタート地点なのです。



